Oct. 18, 2019記 Oct. 23, 2019追記

飛鳥藤原京の山河意匠

  次の本は2018年春に出版した。この本を使って,教員免許証更新講座を2018年度,2019年度に明日香村で実施した。巡検で,飛鳥の谷に南北に走る天香具山の頂上を通過する天の北極軸を実感いただくためであった。
  卒業生が急に大学に就職が決まり,急遽,彼の代打で,変則的な午後6時からの地理学概説bを担当することになり,これを教科書にして,授業を進めている。11月16日には人文地理学会の年に1回の大会で,特別発表の機会を得た。 。本を何回か眺めるうちに,いくつか誤りやミスを見つけた。再販に備えることもあって,気がついたことを書き溜めて行きたいと思う。

木庭元晴, 2018. 『飛鳥藤原京の山河意匠 -地形幾何学の視点-  関西大学出版部.

目 次
 推理から確証へ
 第1章 最近公開されたGISデータベース情報を使って得られた飛鳥及びその周辺の古代 〜更新世末期の自然環境
 第2章 飛鳥時代推古朝による天の北極及び暦数の獲得
 第3章 天香具山山頂を通過する天の北極軸を基軸とする古代飛鳥寺域と水落遺跡の飛鳥川争奪前後の占地
 第4章 飛鳥時代の水落天文台遺跡から観測された天球
 第5章 飛鳥時代斉明期の高取川見瀬付け替え
 第6章 藤原京の占地根拠となる大和三山の太極の発見,そして飛鳥京の寺院等遺跡から得られた太極由来の中ツ道軸と天香具山軸との共存

正誤表 Jan. 26, 2020 (学会特別発表作業中+授業中に発見した)

1. 上限年代と下限年代

  考古学で上限年代,下限年代という言葉を結構使う。元飛鳥川開削年代を記述する際に,考古学の使い方を確認すべく,幾つかの報告を見た。必ずしも一致せず,なんとか,理解したつもりで,この本の第V章コラム「争奪過程で生まれた飛鳥川線状谷の河岸段丘形成年代」を書き上げたのであるが,完全にミスを犯した。
  結論を言ってしまうと,考古学の用法は特殊ではなくて,地球科学と同様だ。このミスの原因の根底に,考古学の米田さんの研究室で,考古学が使う年表を見たのが大きかったと思う。考古学の縦方向の年表では,上が古い時代で,下が新しい時代になっている。歴史学では右側が古くて左側が新らしくなっているのは高校時代には違和感無く受け入れておりました。日本の文章は中国を踏襲していますから,当然と感じた。ところが,縦方向の年表となると,地質学の逆なので,違和感が生じる。日本の考古学だけが地質学と逆転しているのではなく,海外の年表も日本の考古学と同様のものがあった。

  上限と下限は,英語でも同じだ。upper limit,lower limitとなる。放射性炭素年代測定法では次のように使われる。最大遡上年代として,upper limitが使われ,4万〜6万年前ということになるし,lower limitでは250年前というふうに表現する。さて,あるイベントを対象にして,上限年代〜下限年代が考えられる場合に,上限年代はより古い年代,下限年代はより若い年代に対応する。これはどこからくるのか。地層累重の法則 law of superpositionで考えると,上限年代はより若い年代,下限年代はより古い年代に対応する筈だ。しかし,そうはなっていない。上限と下限の使い方がなぜこうなのか,どこかで,納得の行く歴史的説明が用意されているかもしれない。しかし,ぼくは出会っていない。

 前述のように,考古学の報告書でも使い方がまちまちだ。これは,このタームが今や死に瀕していると考えて良いのではないか。運動会でのある種目の参加者の資格として,上限年齢はたとえば60歳,下限年齢は13歳,というような使い方は可能だ。人を評価する基準の一つとして年齢を見て,生まれて時間が経っている人に「上限」年齢を適用する。この辺はなんとなくわかる。この筆法で,ある地層の推定年代も,上限年代はというと,より時間が経過した方を上限にする,ということかとも思う。ところが,地層累重の法則,そしてそれに則った縦方向の年表がある。これは上限と下限が逆になる。この見かけ上の逆現象が,上限年代と下限年代というタームに混乱を与えている。

類語と反語を次のように並べてみた。

_____________

upper = older = earlier = former
lower = younger = later = latter

混乱が無いのは,earlierとlaterだろう。
earlier〔歴史や発展の〕昔の、草創期の
later (順番で)後にある(↔earlier)
である。そこで,
earlier than より先立つ年代
later than より後の年代,より遅い年代
を使うのがベストかと思っています。

元飛鳥川の開削を例にすると,「開削より先立つ年代」と「開削より後の年代」。

別のアイデアが浮かんだ。possibleを使う発想である。

possible earlier date
possible later date

この用法をネットで探すと,荷物の発送に関わる文書中にあった。

https://help.sap.com/saphelp_scm41/helpdata/en/ab/8a1e543a0f452d8a3a942a78b75e5c/content.htm?no_cache=true