2007.12.16記述
過去数十年の科学的観測についてみると,この数年の間に最高または最低気温が比較的多くの地点で観測されている。同様に記録的な豪雨または干魃,氷河の融解などの現象もある。つまり,地球の気象はこのところ極めて不安定である。これは,産業革命以来,石油などの化石エネルギー資源を多量に消費した結果,地球での炭酸ガスと酸素ガスの収支バランスが崩れて,炭酸ガスが増大してきた結果とされる。何度も国際会議が開かれて,この事態を生み出した先進国に対して,場合によっては実現不可能とも思える削減義務が次々に突きつけられている。
昨年末に,インドネシア バリ島で,国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)が開催された。これは京都会議(COP3)で決まった約束期間終了の2012年の後の新たな枠組みを2009年末までに完成させる必要があるがそのロードマップ(行程表)を作るのが主な目的であった。概してEUの先進諸国の脱温暖化社会への志は極めて高かった。EUや途上国の主張はこうである。先進国が目指す目標として,気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学的成果を反映させるために,2020年までに1990年比で25〜40%削減を盛り込むべきであると。予定より1日遅れてバリロードマップに合意が見られ閉幕した。先進国の削減数値の明記,途上国での排出抑制などについて合意に至らなかったが,IPCC報告書の関連部分を脚注に盛り込む妥協もあった。
日本は60年代の高度成長期の公害と70年代のオイルショックを克服するために多くの技術を開発してきたが,炭酸ガス削減率の基準が1990年だから,より高度の削減技術を生み出すのはかなり厳しいという議論がある。ところが,EU先進国の覚悟はこういう議論を超えている。EUは2020年に自然エネルギーの利用割合を20%にするとすでに決めている。2040年には世界のエネルギーの半分を自然エネルギーにすることが可能としている。ここでいう自然エネルギーとは再生可能エネルギーのことで,太陽光,風力,地熱,水力,バイオマス,海洋からのエネルギーをいう。たとえば,ドイツでは2007年現在ですでに自然エネルギー発電比率は12%に達している。これに対し日本の2014年度の目標が1.63%であるから余りにかけ離れている。
EU先進諸国の自然エネルギー利用の技術が日本より高いからこういう事態になっているのではない。例えば太陽光発電には太陽電池が使われるが,その有力企業は日本のシャープである。ドイツなどの成功の理由は「固定価格買い取り制度」にある。電力会社に割高な価格で自然エネルギーを買い取るよう義務づけ,逆ざやを電力料金に上乗せ(約3%)することで埋めている。つまりは消費者が負担している。これは環境税の一種と考えて良いだろう。こうすることで電気を使って生産される製品にも価格転嫁される。
この原稿を書いている12月中旬現在,ガソリンは実質150円/Lと高い。石油の高騰が輸送費を高め,その結果,商品価格も上昇する兆しがある。これまでは石油価格が比較的低く抑えられてきたので,国内でも例えばジャガイモが北海道から鹿児島へ大型トラックで輸送されるのは当然であった。そういうことは,温室効果ガスの排出量を抑えるためには許されなくなるであろう。地場産物消費が優先されるであろう。政治主導もあるだろうが,排出量または環境税の観点が市場価格に反映されることになる。価格=原材料+加工代+輸送料,という式の中で環境税を含む輸送料の比率が高くなる。
EU同様,日本でも,政府も企業もこのことに早く気づき,大幅な転換の局面に自ら進んでいくべきである。これまでの価格は単純にいえば,需要供給曲線で決まったのであるが,これからは排出削減の世界的な潮流に従う,言い換えるとこれまでの人類の展開の継続のための選択の連鎖が重要になるだろう。日本ではこの形をほぼ具現しているのが自他共に害するタバコの価格である。これはガソリン,高速代,肉,大型乗用車,さらには衣食住全般に展開してゆくことが予想される。食品など生活の基本部分については配慮がなされるであろうが,贅沢品については価格に環境税が転嫁されてゆく,つまりはあらゆるところに省エネの経済学がはびこるとも考えられる。
こういう観点は性急な印象を与える。とはいえ,ぼくはここ10年ほど前から肉食をほぼ止めた。肉食が余りに食物連鎖の点で悲しく食物消費の無駄が多いという点がある。荷物を運ぶときや学生指導や研究のための調査には車を使っているが,自転車通勤に変えて1年が過ぎた。ガソリン価格が上がったから自転車でという行動はいかにも姑息である。ぼくは価格の上がる前から自転車通勤を始めていることを申し添えておく。(本学教授)
なお,関大通信350号(受験生特集号,2008年2月)に掲載されるものは250字の制限があり,下記のようにしました。
「気象不安定化に対して私たちができることはあるの?」
地球の気象は,このところすっごく不安定。原因は石油などの化石エネルギーの消費で出た炭酸ガス。欧州連合に加盟する先進国の,太陽光など再生可能エネルギーへの転換速度は極めて大きく,日米などを遠く引き離しています。日本主導の京都会議での自国の数値目標すら達成が難しくなっています。日本の消費者が省エネへと価値観を変える必要があります。ぼくは10年ほど前から肉食を止め,発展途上国への小さな寄付などもしています。自転車通勤に変えて1年が過ぎました。生活が夜型なのですがこれも変えねばと思っています。(以上)
なお,地球温暖化という言葉は好きではありません。ただ,千里地理通信では使いました。地球温暖化傍観,という表現ならば,地球温暖化を支持している訳ではない,というニュアンスも伝わると思ったからです。