written May 19, 2016, reivised  Feb. 27, 2017

自然地理関係の入試問題(木庭作成)

2017年度(2017年春実施)入試

 経緯線網と図法 2017.2.4実施 1/1 (pdf)  1/1 (docファイル)
    ぼくは奉職以来33年間いずれも入試ミスを出したことがない。ただ,今年は2件,正解がない,というような指摘があった。地理学を大学で専門にしないで地理を予備校や高等学校で教えている。もしくは,大学での教育に問題があるのかも知れない。大学での自然地理学を専門とする教員は激減している。地理学を専攻とする学生が文系学部に所属することが多く,卒論などの指導上,自然地理学の教員は不要と人文地理学の教員が考えて,自然地理学を専門とする教員が辞めたあと,人文地理学の教員を採るという構図である。地理学は人文地理学だけでは科学または教育の場で存在意義が見いだされず,等閑視されてゆく。高校教科書にも問題がある。自然地理学限定で申し上げるが,誤った記述が多い。執筆陣をみても自然地理学を専門とする教員が含まれていない場合もある。日本の自然地理学の教員は大きく分けて,地形学か気候学を専門とする教員が多い。自然地理学の教員が一人の場合,地形学を採用した方がいいと感じている。気候学を専門にして地形学を理解しなければならない機会は多くないからである。以上は当方の管見ではある。
   ぼくの出題意図には,高校の教科書の誤りを指摘して,高校の地理の先生方に,地理学を知って欲しいという思いがある。学会であっても多くの誤謬があって,そういう部分へのいらだちもある。


質問1:  

問(D) 下線部Cに関連して,北半球で北極星を使う場合,天文緯度(度)は次のいずれか。なお,鉛直方向から北極星までの角度をθ度とする。
選択肢:   (ア) θ  (イ) θ−90  (ウ) θ+90
これは,鉛直方向から北極星までの角度が θで,90ºを超え,緯度は90º未満なので,正解は, (イ) θ−90,となる。受験生はこのように考えて回答したものと思われる。易問と出題者は考えていた。
    質問者は高校教諭の方で,次のようであった。
問に「鉛直」方向とあるが、鉛直であれば正答は『90−θ』となって正答 無しではないのか。「鉛直」ではなく、「水平」としなければ、問題として成立 しない(選択肢から正答を選択できない)のではないか。
    次のような回答を申し上げた。図を参照しながら読んでほしい。



    下記のurlの国立天文台の暦Wikiに掲載されている図に注記してご説明いたします。
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C5B7CAB8B9D2CBA12FB0DEC5D9A4CEB7E8C4EA.html

上記サイトの,北極星緯度法,をみて下さい。
「天の北極の高度を測れば緯度がわか」る。上図の基図このサイトからコピペしたもので,その上に,よりわかりやすく,テキストや弧などを足しました。

北半球の任意の地点でこの図が成り立ちます。点Pが観察者の位置です。
「天の北極の高度」は,δ1で表すことができます。このδ1は天文緯度δ2になります。当然,δ1=δ2です。

実際の観測では,下げ振りで求めることができる鉛直方向が基準です。この器具はローマ時代や中国殷周時代にも使われていたもので,θ=90ºの時には水平方向を視準していることがわかります。太陽や星の高度を計測する時は当然,θ>90º,となります。水平方向は現在では水準器をプリズムで鏡筒内でみて知ることができますが,古代には下げ振り,つまり重力方向を基準としておりました。東西いずれもそうです。こういう指摘を現在の具体的報告ではぼくはみたことがありませんが,古典を見るとそうなっています。

以上の説明からお分かりと存じますが,
θ=90º + δ1,となります。変形しますと,δ1=θ-90º

別の方向から確認します。平行線に交差する線分OPの上方向の角度に注目すると,∠O (=90º-δ2)+ ∠P (=θ) = 180ºだから,90º-δ2 + θ = 180º。それゆえ,-180º + 90º + θ = δ2で,δ2 = θ - 90º。

以上です。

質問2: 

問(J) 航空路で利用される方位図法のうち,正距方位図法のみが持つ特質は次のいずれか。   
 選択肢:
(ア)  図の中心O点と図上の任意の点の間の線分は大圏コースを表す。   
(イ)  図の中心O点の周囲の円は地球上のO点からの等距離圏を表す。   
(ウ)  図の中心0点と図上の任意の点の間の線分は最短距離を表す。

 次に,外部指摘に対する回答書を示す。

 この当方の回答について,更に返事があって,
    「大圏コース」と「最短距離」が同じであるという教科書(特に帝国書院)の記述があるということで,(ア)と(ウ)の違いがつかめない受験者が多いのではないか,ということであった。そうなのか,と信じて,まあ教科書にそういうミスはあるかもなあと,一時放置していたのだが,この点を重視してこの設問には問題があるという流れができて,はじめて,その帝国書院のその該当部分を見てみた。
   帝国書院とともに,教科書採用率が高いと考えられる 二宮書店, 多少独自性の高いが強調点が明確な東京書籍の教科書をみると,帝国書院同様,正距方位図法については大きな地図入りで,詳しく述べられていた。最新版以外の帝国書院の記述には指摘されている点は無かったが,最新版については,「大圏コース(最短距離)……………」という記述部分があった。ただ,文脈から見ると,大圏コースだけでなく,最短距離も,地図の中心O点からの線分で表現されると,理解された。大圏コースは経路であり,最短距離はその長さであるのは,地理教諭も生徒も理解していると思う。実際,ぼくは高校一年生でそう教えられた。
   しかし,日本語の同格を表すはずの中点「・」や,意味不明な「おいて」だけでなく, ()よ,お前もか,と感じた次第である。A (B),という表現が,A=Bだと言い切る日本人が今回,多数派を占めた。そうじゃないだろう。( )の意味はイコールではない。

http://web.ydu.edu.tw/~uchiyama/ron/ron_14.html  よれば, 
注記を示す:   カエサル(シーザー)が暗殺され、 ……
補足を示す:   小論文(または、研究報告)を提出しなければ、……
引用の出典を示す:  これは「日常会話の隠喩(杉本 2002)」の例である。 
著作物の刊行年を示す:  古大内(1997)によれば、村上春樹の小説では……
    で,今回の騒動の元になった表現は,「補足を示す:   小論文(または、研究報告)を提出しなければ、……」に該当する。イコールではない。イコールを意味する( )は無いのである。

2016年度(2016年春実施)入試

 
 福島盆地北部の低位段丘,阿武隈川沖積低地,ポイントバー 2016.2.1実施 1/2 2/2
 NOAAレリーフマップ 世界の大地形 2016.2.3実施 1/1
 植生プロファイル 2016.2.6実施 1/1
 地震と火山の災害 2016.2.8実施 1/1
 レアメタル(統計) 2016.3.3実施 1/1

 

 

 

以 上