2018年9月15日 (土)作成 修正
炭素安定同位体比δ13Cと窒素安定同位体比δ15Nを使った研究の意義と試料採取法に関連してここに示します。ご多忙のなか,申し訳ございませんが,お読みいただいて,ご理解いただければと存じます。本文では簡潔な表現を優先しております。なお, 井上先生と米田先生から発表期日などの制限に関する説明を受け, 理解しているところです。
1. 研究の意義
拙著 (『飛鳥藤原京の山河意匠 ー地形幾何学の視点ー』の,第3章コラム「争奪過程で生まれた飛鳥川線状谷の河岸段丘形成年代」) には, 飛鳥宮跡苑池が, 斉明期に実施された飛鳥川の付け替え後の下方侵食によって生成された河岸段丘上に載ることを示している。橿考研と明日香村(引用か)との報告にあるように,苑池層準直下は自然層である。この自然層は河岸段丘礫層にあたると木庭は考える。自然地理学分野を研究してきた者にとって,考古遺跡に絡み,自らが形成時代を推定した河岸段丘の地表下を是非みたいという思いもある。
木庭と関係院生は,
炭素安定同位体比δ13Cと窒素安定同位体比δ15Nを使って,かつて環境評価を試みた。使用測定器は, 関西大学なにわ・大阪文化遺産学研究センターのプロジエクトで導入されたものである。沖縄島本部半島北隣の屋我地島の礁原堆積物, と, 北摂箕面川河床堆積物の2例を挙げる。前者では。 主に炭素安定同位体比δ13Cを使って,礁原を構成する二層構造の陸源堆積物の影響の程度を明らかにした(下にそのパワーポイントのリンクを張っている)。後者では箕面川への生活水流入を窒素安定同位体比δ15Nを使って,明らかにした。
苑池で報告されている自然層と苑池層(人工擾乱層)の出現形態は極めて単純であり, 両層準それぞれの両同位体比の違いが明瞭に現れることが期待される。木庭は飛鳥川およびその周辺のボーリング試料を集めてきた。M1院生の桑名友太は, 飛鳥川およびその周辺の古代に絡む自然環境の復元をテーマに研究を進めており, 木庭は, 是非苑池遺跡の分析試料も加えて,彼の修士論文作成に生かせてやりたいと願っている。彼は, この9月8日からは京都大学の共同利用施設で安定同位体比測定の研修を1週間受けてきたところでもある。
2. 試料採取法
苑池遺跡の自然層と苑池層を採取する。 一試料あたり, 大さじ1杯程度とする。自然層は河岸段丘礫層であり, 巨礫などもあり, 基質部分を採取する。実際の分析に供する試料は砂礫画分を取り除いたシルトまたは粘土画分であり, 前処理後の試料は, 10mg/試料x3試料測定, である。自然層と苑池層のペアで, 計10カ所程度を考えている。可能ならば, 最大20カ所である。
木庭元晴,北窪友美子,中辻真央,2012. 沖縄島羽地内海の内湾性礁原被覆薄層の粒度分布と窒素・酸素安定同位体比から得られた赤土成分の拡散パターン.Diffusion pattern of red soil runoff on a bay reef flat, Okinawa-jima Island, using delta13C and delta15N. 日本地球惑星科学連合2012年大会.
なお, 次の報告も, 苑池試料分析の参考になると思われる。
永田 俊, 2012. 各種安定同位体を用いた流域窒素負荷の診断. 「水の循環系モデリングと利用システム」 平成 15 年度採択報告.
以 上