2015年11月11日 (金)作成 Dec. 7, 2015修正 

原著論文の書き方

 名著,木下是雄, 1981.『理科系の作文技術』 中公新書 624,にぼくも大きな影響を受けた。この手書きのpdfは,1984年頃,学生の教材用にまとめてもので,ぼくの考えも入ってはいる。理科系と銘打っているのは,文系に対する敬意の表れであったろう。ここに掲載されている悪文の例は理系分野から取られているのであるが,論文を書く上では,文系にも大いに役立つものであり,文系のだらだらした感想文的な論文に対しても,この木下の新書を読んだ後は,過ぎ去った時代へのノスタルジーさえ感じることであろう。


 このpdfのなかで,p.3 の文章の心得で,逆茂木型の文を書かぬこと,と,破格の文,については,ここに説明を追加した方が良いであろう。

1. 逆茂木型の文,を避ける

 逆茂木とは,次の意味である。
さかもぎ【逆茂木】 敵の侵入を防ぐために、先端を鋭くとがらせた木の枝を外に向けて並べ、結び合わせた柵(さく)。さかもがり。鹿砦(ろくさい)。鹿角砦(ろっかくさい)。
https://kotobank.jp/word/逆茂木-509194
  Security Akademia 『理科系の作文の技術』に整理されている。

 逆茂木型の文章とは,東京大学の千葉滋さんのウェブサイトを見ると,次のようにしている。
「「〜である。だから〜で、そうすると、〜となり、だから〜である。」というスタイルの文章を書く人が多い。(中略)最後にすべての枝葉の話題が合流して結論となるような文章は、最後まで読まないと全体として何を言おうとしているかわからないので、読みづらい。このような文章は逆茂木型といい、悪い文章である。 よい文章では、結論が先にきて、枝葉の話題は後ろになる。そのような文章は読みやすい。(中略)英語の文章はこのような形になることが多い。例えば、 "We propose that ... so that ... because ... for example ..."(後略)」

1.1 木下さんの演習問題と解答が,気ままにブログで紹介されています。

演習 下記の逆茂木型の文章を読みやすく書き直せ。
「次の金属のうち、その4.0gを希塩酸の中に入れたとき、金属が反応して完全に溶け、その際発生する気体の体積が、0°C,1atmで1600立方センチメートルになるものを選べ」。

1.2 別の例も,ブログ IT翻訳者の疑問。この逆茂木型の文章を改めてください。
演習 「長い航海を終って船体のペンキもところどころはげ落ちた船は、港外で、白波を立てて近づく検疫のランチの到着を待っている」。


1.3 さらに別の例。東北学院大学の松本章代さんの文章作成法

「直流電気抵抗の消失をはじめとする特異な性質を示す超伝導状態は,いろいろな運動量をもって勝手な運動をしている伝導電子が,ある臨界温度 T で,そのほとんどがペアをつくり,ある特定の運動量 P をもった一つの量子状態に落ち込むことによって実現する」。

この改良例として,
「超伝導状態では,直流電気抵抗の消失をはじめとし,いくつかの特異な性質が現れる。 この現象が発現する機構は以下のようなものである。...」

2. 破格の文,にならぬよう。

 破格(の文章)とは,次の意味である。
詩や文章などで、普通のきまりからはずれていること。また、そのさま。「―な(の)文体」
http://dictionary.goo.ne.jp/jn/174715/meaning/m0u/

2.1 Yahoo知恵袋の例だが,これも木下さんの問題だったような。

「アルミニウム製錬は電飾多消費の代表のようなものなので、 別項にのべるように電力単価の切下げ、別の新製錬法の開発努力もしているが、 電力の安価な地域へ出かけて製錬することが計画されている」。

改良例として,次の文が掲載されている。
「アルミニウム製錬は電飾多消費の代表のようなものなので、 精錬会社は、別項にのべるように電力単価の切下げや別の新製錬法の開発の努力をしているが、 加えて電力の安価な地域に新たな工場を設置することを計画している。」

3. 新聞に見る,英文と日本文の違いの例

 なお,上記の文例とともに,日本と合衆国の新聞記事を比較して考えてみてください。著作権がありますが,ネット上に公開されているものですし,教材として利用させて頂くということで,毎日新聞とNew York Timesにはご理解頂けると考えています。リンクも示しているが後にはリンク切れが生じるであろう。

下記のNY Timesの記事については,全く逆茂木になっていない。前から読んで,直に理解できる。

3.1 New York Times社説

http://www.nytimes.com/2015/12/05/opinion/end-the-gun-epidemic-in-america.html?_r=0

The Opinion Pages | EDITORIAL
End the Gun Epidemic in America
It is a moral outrage and national disgrace that civilians can legally purchase weapons designed to kill people with brutal speed and efficiency.  By THE EDITORIAL BOARDDEC. 4, 2015

All decent(まともな) people feel sorrow and righteous fury about the latest slaughter(虐殺) of innocents, in California. Law enforcement(法執行機関,警察) and intelligence agencies are searching for motivations, including the vital(不可欠の) question of how the murderers might have been connected to international terrorism. That is right and proper.

But motives do not matter to the dead in California, nor did they in Colorado, Oregon, South Carolina, Virginia, Connecticut and far too many other places. The attention and anger of Americans should also be directed at the elected leaders whose job is to keep us safe but who place a higher premium on the money and political power of an industry dedicated to profiting from the unfettered(束縛を受けない) spread of ever more powerful firearms.

It is a moral outrage(残虐行為) and a national disgrace(恥辱) that civilians can legally purchase weapons designed specifically to kill people with brutal speed and efficiency. These are weapons of war, barely modified and deliberately marketed as tools of macho vigilantism(マッチョ自警団主義) and even insurrection(暴動). America’s elected leaders offer prayers for gun victims and then, callously(冷淡に) and without fear of consequence(結果の恐れなく), reject the most basic restrictions on weapons of mass killing, as they did on Thursday. They distract(注意をそらす) us with arguments about the word terrorism. Let’s be clear: These spree(連続犯罪) killings are all, in their own ways(それぞれのやり方で), acts of terrorism.

Opponents(政敵) of gun control are saying, as they do after every killing, that no law can unfailingly forestall(必ずしも阻止する) a specific criminal(犯罪者). That is true. They are talking, many with sincerity, about the constitutional challenges to effective gun regulation. Those challenges exist. They point out that determined killers obtained weapons illegally in places like France, England and Norway that have strict gun laws. Yes, they did.

But at least those countries are trying. The United States is not. Worse, politicians abet(教唆する) would-be killers(殺人者予備軍) by creating gun markets for them, and voters allow those politicians to keep their jobs. It is past time to(〜すべき時期がきている) stop talking about halting the spread of firearms, and instead to reduce their number drastically ― eliminating some large categories of weapons and ammunition(弾薬).

It is not necessary to debate the peculiar wording of the Second Amendment(法律などの改正). No right is unlimited and immune(権利は無制限ではないし批判に動じない訳でもない) from reasonable regulation.

Certain kinds of weapons, like the slightly modified combat rifles used in California, and certain kinds of ammunition, must be outlawed for civilian ownership. It is possible to define those guns in a clear and effective way and, yes, it would require Americans who own those kinds of weapons to give them up for the good of(の利益のために) their fellow citizens.

What better time than during a presidential election to show, at long last(とうとう), that our nation has retained its sense of decency(良識)?

This editorial published on A1 in the Dec. 5 edition of The New York Times. It is the first time an editorial has appeared on the front page since 1920.

次の毎日新聞の記事では,持って回った表現があって,破格の文体が見られる。さすがに新聞記事であるから,逆茂木式の表現はほぼ無いと言って良いだろう。

3.2 毎日新聞の紹介記事
http://mainichi.jp/articles/20151206/k00/00m/030/044000c

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NYタイムズ紙1面社説「銃のまん延」で規制主張
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毎日新聞2015年12月5日 20時08分(最終更新 12月5日 22時06分)

 【ニューヨーク草野和彦】(文1:)米カリフォルニア州の銃乱射テロ事件を受け、5日付のニューヨーク・タイムズ紙は1面で「銃のまん延」との社説を掲載し、銃規制の必要性を訴えた。(文2:) リベラルな論調で知られるニューヨーク・タイムズ紙は、以前から銃規制を訴えているが、1面の社説掲載は大統領選候補について書いた1920年以来、初めてだという。

memo by Koba: (文2)の第二文の主語は何だろうか? この文2は破格である。

 発行人のアーサー・ザルツバーガー・ジュニア氏は声明で「銃による惨事を甘受している我が国の無能さに対する不満と怒りを強く、明確に伝えるのが目的だ」としている。
 今回の事件で容疑者は攻撃用ライフルを使用した。社説は「残忍なほどに素早く、効率的に人を殺害するために設計された武器を、市民が合法的に購入できるのは非道徳的であり、国家的な恥だ」と主張した。
 さらに、銃器産業との関係を重んじる議員らが銃規制を拒否するだけでなく「彼らはテロリズムという言葉を使うことにより(銃規制に対する)我々の関心をそらしている」と非難した。
 (段落3:)銃の所有は憲法で認められた権利とする最高裁判決があるが、社説は「どんな権利も無制限ではなく、合理的な規制は免れない」とし、攻撃用ライフルなどの所持を違法とする必要性を強調した。

memo by Koba: (段落3)のはじめの,「銃の所有は(中略)があるが」,は,これより後の文との関係をみて,適切な表現だろうか。

 (段落4:)一方、保守的な論調のウォール・ストリート・ジャーナル紙は4日付の社説で、オバマ大統領や民主党議員らは容疑者の身元が判明せず、動機も分からない中で「象徴的な行為にすぎない銃規制案の採決を要求するため、14人という死者を利用した」と非難した。

memo by Koba: (段落4)で,民主党の動きに対するウォール・ストリート・ジャーナル紙の批判,が示されている。一気に単語を追えば理解はできるが,文脈が

 (段落5:)また、容疑者らは急激に過激主義化した可能性があり、銃購入時の身元調査強化などの措置を取ったとしても「乱射は防げなかっただろう」と主張し、銃規制は犯罪抑止につながらないとの論陣を張っている。タイムズ紙とは対照的で、両紙の社説は、銃規制を巡る米世論の分断を象徴している。
p171 END | tools BGN |

memo by Koba: (段落5)の前段について,銃規制に反対のウォール・ストリート・ジャーナル紙が何をいいたのか,を理解するのが難しい。説明不足が否めない。


p171 END | tools BGN |

以 上