2003年12月22日作成,2005年7月8日最新修正
リモートセンシングRS入門
これに関しては,かなりのウェブサイトがあると思います。次に2例を紹介します。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)では,宇宙や人工衛星やリモートセンシングで観察されることなどが紹介されています。
小学生高学年以上JAXAクラブ https://www.jaxaclub.jp/cgi-bin/index.cgi
財団法人リモート・センシング技術センタ- RESTEC: 地球まるごとセンシング 小学生高学年以上
http://www.restec.or.jp/chikyu/index.html
リモートセンシングとは,現象や対象に直接触れないで情報を取り出すプロセスを言います。リモートセンシングで得られたデジタル情報を加工して解釈することになりますが,これは一種の画像処理過程と言えます。通常の写真の撮影も広義にはリモートセンシングに含まれます。写真は画像の一種です。ここでは地表の被覆の簡単な分類に関するリモートセンシングを紹介します。
GISとRSの関係: GISは地上の地道なデータの蓄積が必要で,個人では時空いずれにおいても取得できる情報は限られている。GIS技術は時空の広汎な情報を得ることで初めて生かすことができる。そのため,公的機関のデータベースソフトへのアクセスが重要な要件となる。データベースが取得できてもその中味はほとんど空間的に充足するようなものはない。この点でGISはRSを必要とする。RSは時空いずれにおいても科学的に均質のデータを取得しうるので,科学的な分析対象になる。
RSは上の2ウェブサイトの例でわかるように,空間的にもさらに時間の連続性においても多量のデータを取得しうるが,そのデータの意味づけや,地上の現象と結びつける技術をGIS技術にかなり依存している。それゆえ,GISとRSは極めて密接な関係を持っているのである。
RSの出現による地球表面科学の新しい展開: RSの技術の「飛躍的な」展開は1972年に打ち上げられたLANDSAT(ランドサット 米国の地球資源探査衛星)から始まる。それ以来,地表科学は飛躍的に展開した。データ取得は,それまでは限られたテーマで限られた範囲で実施されてきた。個々人そして多数の研究従事者の間で,取得データの統一性を図ることは極めて難しいことであった。その限界を破ることができた。アクセスが難しい場所であっても,容易にデータを取得することができるようになった。地球全体をである。
電磁波の大気透過率とRSで使用される電磁波帯:地球に降り注ぐ電磁波には下の図のように波長で分けると様々なものがある。波長が短いものは一般に大気透過率は悪いのであるが,およそ400〜700nmの範囲は例外的に極めて高い。この範囲は大気の窓と呼ばれており,およそ可視光線の範囲に入る。下の図がその拡大図であり,レインボーカラー表示されているが,コンピュータではRGBつまりRed,
Green, Blueの光の三原色に区分される。三原色の波長は,Red700〜600nm,Green600〜500nm,Blue500〜400nmである。人工衛星に搭載されているセンサーは,主に太陽光線が地表で反射する電磁波をキャッチするのだが,その波長の領域は可視光線(光の3原色)から近赤外線部である。近赤外線そのものの波長域は700nm〜2000nm
(2μm)である。ぼくらが知っている白黒フィルムやナチュラルカラーフィルムは波長360〜700nmの電磁波に感光している。360nm以下の電磁波は通常の光学レンズを透過してしまう。
太陽光線をキャッチする方式は受動的測定法と呼ばれる。これでは夜や曇・雨の日には情報を取得することができない。これに対し能動的測定法が開発された。これは自ら電磁波とくにマイクロ波(一般には0.1cm〜2mの波長を持つ電磁波)を発射して地表からの反射波を取得する。このシステムはSAR(合成開口レーダー,マイクロ波の分解能は原理的には受信するアンテナの長さが大の方がいいが長いアンテナに似せるための信号処理技術をもったもの)とよばれる。例えばSEASATに積み込まれているものは,海面の風や温度、波の高さ、海流、海氷などを観測することができる。
図1 電磁波の種類と大気での透過率 九州東海大学宇宙地球情報工学科の「宇宙から見た地球」の資料
マルチスペクトルデータの分析
取得波長領域つまりバンドの異なるセンサーを複数取り付けて地表の情報を取得することで,地表の特性を認識できるとされる。これには,次の図に示したように異なる物質は固有の反射や吸収の性質を示すという前提がある。地表の差は,各バンドの強度データから描かれる曲線の差として現れる。衛星画像の最小単位であるピクセル毎にこの情報を取得し,曲線を描くと考えればいい。
図2 地表の対象による電磁波の反射・放射特性カーブ restec
応用例: 植物の量を取得する場合,上の図にも見られるように近赤外線の部分が有効である。他のバンドを使って植物中の水分の量を把握することも植物の種類を知る上で重要である。近赤外/赤の反射率の比は,緑の葉の量に高い相関がある。近赤外線や遠赤外線(上の図の熱赤外線にほぼ該当)に対して個々の鉱物は特有の値を示す。遠赤外は地表温度とも関係しているのである。さて,各電磁波の波長帯の地表の物質や現象との関係は,実際に地表で実測した値や既存データベース(グランドトルースground
truth)と関連づけることで初めて明らかになる。
すぐ上の段落の始めに記した「植物の量を取得する場合,上の図にも見られるように近赤外線の部分が有効」という記述の例として,九州東海大学作成の阿蘇山の画像の例を次に示したい。上の図2に見られるように(見にくいですが),植物(二つのピークを持った緑色に塗られたカーブ)は,G(緑)と近赤外線の所で高い反射率を持っている。そして,近赤外線のところのピークがGreenのところよりかなり大きい。コンピュータのモニターにカラー映像を映すには,RGB(光の3原色)を利用するが,このGreenのバンドの代わりに近赤外線のバンドを使うと,
植生(植物)表現のためのGreenが強調される。次の三つの図とその下の説明を参照してください。
図3 図4を作成するのに考えられたバンドの組み合わせ
左列の三つの図は上からモニターのRGBに対応している。この例ではGの代わりに近赤外バンドの情報を入力している。その結果できた画像が図4である。
図4 ナチュラルカラー画像
熊本市を含む画像である。図3の作業の結果得られた画像をナチュラルカラー画像と呼ぶ。我々のカテゴリー的認識に近い画像となっているので,ナチュラルと呼ばれる。
図5 トルーカラー画像
人が上空から見たときに実際に見えるであろう画像なのでトルーカラー画像と呼ぶ。これはRGBとバンドの関係を一致させた場合である。
限界・問題点: 上記のスペクトル反射特性の概念には大きな弱点がある。地表の同一の対象物例えば小麦の場合,場所が異なれば,または時間が異なれば大きく変化する。太陽光の入射角,天候,土壌の違い,小麦の生長時期,被覆率などがその要因である。さらに混合ピクセルの問題,すなわち一つのピクセルには道路も組み込まれる可能性がある。
人工衛星1画像(1シーン)のファイルサイズ: ピクセル単位の情報の中味には,次の種類がある。空間分解能,画像の解像度,情報の広がりの最小単位。これは画像1ピクセルの大きさである。たとえばセンサーがLANDSAT TMの場合,30m×30mなど。次に情報の深さがあり,これは1ピクセルに8bitが用意されているかさらにそれ以上が用意されているかということである。たとえばLANDSAT TMの場合,センサーが6バンド分で情報の深さが 8bitであるから,1ピクセル当たり6×256(6Byte)の情報量があることになる。ちなみにLANDSAT TMの場合,1画像つまり1シーンは,幅185km×170kmで分解能30mであるから,6170ピクセル×5670ピクセル=35,000,000ピクセルというサイズになる。使用メモリはおよそ200MB(35Mピクセル×6B/ピクセル)にもなる。なお,ある地点で見た場合,人工衛星がいつからいつまで情報を取得してきたのか,どの程度の時間間隔でということも重要な点である。
デジタル処理による限界のクリア: これまでに述べたマルチスペクトルデータの問題点・限界やファイルの重さを解決する手法がある。信頼できる衛星データの場合,補正すべきなのは幾何学的部分と電磁気的部分である。投影法の変換,大気による歪みの補正,太陽角度の調整などは可能なところである。
元のバンド数が4以上あってもRGBの三原色データに変換することができる。さらに1ピクセルあたり24ビットの画像を8ビットに変換しても,画像中の像の情報を分析する上でほとんど変化がないことがわかっている。このように考えるとたとえば200MBのLANDSAT
TM画像は30MB程度まで圧縮することが可能となる。
連続量のクラス分け: 人工衛星データはいわば連続量であるが,最終的に得たいものはここでは,植生分類や土地利用分類など離散的カテゴリー分類である。それゆえ,人工衛星データの連続量から離散量に変換するクラス分けという作業がデジタル処理の中で重要となっている。人工衛星データはラスターデータであるから,これをラスター型GISに取り込みことは比較的容易である。
さて取り込んだ後にたとえば植生分類をする場合,簡単な2値判断法則を利用する。まず,水域を除去,次に雲と積雪地域を除去,というようにしておよそ作物だけにしてこれをクラス分けすることになる。
地図による画像認識: この手法はクラス分けにかなり有効な方法である。これには,層別化,クラス分けの修正,クラス分け後の並び替えがある。
層別化: 分類前に,地域を地図に基づいて小さな地区に分ける。たとえば必要な行政区画内と外で分析の精度を変えたり,斜面方向や斜面傾斜のデータに基づいて太陽の影の部分を除いて明るく輝いている部分だけを分析対象にすることができる。
クラス分けの修正: 分類の処理中に,地図情報を利用する。植生などで高度によって変化するものについては,高度をカテゴリー分けしてそれぞれからピクセルの特性を取り出して,分類するというようなことである。
クラス分け後の並び替え: たとえば,分類が不可能な「そのほか」になったものを,地図の情報から分類するというようなことである。
時系列的変化を捉える: 異なる時期の差を捉える情報源としてリモートセンシングは極めて有効である。変化を測定するには,画像の幾何学的位置合わせをする必要がある。その上で差を捉えるには二つの方法がある。ピクセル比較法とシンボリック変化探査である。
ピクセル比較法: これは位置会わせをした撮影時期の異なる2枚の画像をピクセル単位で比較する方法である。計算そのものは単純だが,解釈は非常に困難とされる。たとえば土地利用の変化を捉える場合のトウモロコシ畑を単純に考えても,夏には緑色,収穫後は薄茶色になる。当然,同じ土地利用として認識されない。他にも,二つの視野角が同様でなければならないし,他の要素でもかなり変化する。とはいえ,個々の時期から想定されるグランドトルース情報があれば,この問題は回避できる可能性がある。
シンボリック変化探査法: まず識別したいカテゴリーを決める。例えば都市化については,自然のカテゴリー(草地や森林)から開発のカテゴリー(ゴルフ場や住宅やショッピングセンター)への変化を調べる。個々の画像でカテゴリーの範囲を調べて後,分類済みの2枚の画像を比較する。その結果,この変化した部分を示す地図や地域変化を表す統計表を求めることができる。
ピクセル比較法は事実上,不可能なことと思われる。1シーン内の画像であれば,現地でのその撮影当時の種々の地図・航空写真や統計情報などのグランドトルース情報があれば,離散的なカテゴリー区分はが可能である。初心者は個々に異なる時期の画像処理をしてのちに比較するシンボリック変化探査法を採用した方が得策であろう。
君たちがRSを理解する上でやさしいと思われる文献:
○ Star, J. and Estes, J., 1990. Geographic Information Systems An Introduction.
Prentice-Hall, Inc. の翻訳本として,岡部篤行・貞広幸雄・今井 修 翻訳, 1992. 入門 地理情報システム, 共立出版.232p.
4800円(この本のpp.157-178はこのページを作成する上で参考にさせていただいた)
○ 長谷川 均, 1998. リモートセンシングデータ解析の基礎. 古今書院, 138p.3500円
上に掲載させていただいた画像は次のCD-Romから抽出した。
○ 九州東海大学工学部宇宙地球情報工学科 (2002):宇宙から見た日本(画像集),リモートセンシング解説集. 授業用
以 上