土壌および泥炭の前処理 07/07/22作成  Jan. 30, 15 硝酸処理について追加修正

 土壌の年代測定はこれまでやったことがなかった。前処理が面倒だからだ。しかし,Gohを主とする次の文献に会って,以外と簡単なのに驚いた。あまりにこれまでの常識と違ったので読み解くのに二日ほどかかったが,了解した。これまでの方法(Gupta, S.K., and H.A. Polach, 1985など)では,酸処理をして,その上で,アルカリ処理,酸処理をするものである。

 0. いわゆる腐植土humusを乾燥して,砕いて目に見える根っこなどの有機物を取り除く。
 1. 全試料を酸処理して,無機のCを取り除く。上澄みは捨てて,残渣を次の処理にまわすことになる。この残渣が腐植物質humic substancesである。狭義の腐植(土,質)humusに対応する。
 2.次に,NaOH溶液で処理して,これに不溶のフミンhuminと可溶物に分ける。
 3. 可溶物に酸を加えて, 沈殿する腐植酸=フミン酸humic acidと可溶のフルボ酸fulvic acidに分ける。

 このように分けた画分fractionを別個に年代測定する。とくにフルボ酸は全pHに可溶で土壌の層位年代を若くする効果がある。それゆえ,これまではフミン酸またはフミンが年代試料に使用された。フミン酸も地下水などで移動しやすく厳密な年代を得るには少量に限定されるフミンが使われてきた。日本では1.のみの酸処理だけしたものも使われてきた。

 K. M. GOHの報告には,a.とb.という形があり,これまでの処理を想定するとa.の硝酸の処理の次に,b.のアルカリ処理を含む処理をすると考えた。ところが,A.P.HAMMOND et al.を見ると,どうみても硝酸の処理だけで,フミン酸とフルボ酸を取り除いている形である。abstractの一部を引用する。本文を見ても同様である。

 The hydrolysis of peat and organic silt samples with 70% HNO3 and dating the resultant residue produced significantly increased 14C dates (c. 6000 years) with respect to untreated samples. The major conclusion from this study is that existing radiocarbon dates of 12 000 yr B.P. and older, on peats and organic silts from gley podzol environments, are contaminated by younger, less stable, more mobile carbon, such as fulvic and humic acid fractions.

 そういう訳で,土壌や泥炭などは,次の処理をすれば足りることになる。比較的詳細な硝酸の処理法はGoh (1991)の方に記されている。当方の経験を踏まえて次のような実験過程を取る。Jan. 30, 2015追加修正

 1L(最大試料30g)または2Lビーカー(最大試料60g)使用の場合を示す。70%硝酸は手に入らないので,67.5%硝酸(要薬品株式会社(大阪市西区京町堀3-2-7 (06) 6445-0444)製,NET20kg 2200円,ポリタン1000円(回収可能))を使用する。
 次の文章は2Lビーカー使用時のものであるが,下方に試料重と硝酸の使用量との関係表を示す。

硝酸処理の前に:

 0. 採取試料重を計量する(湿重とする)。
 1. 湿っている場合,風乾または,恒温乾燥器では110度にセットし8時間稼働,計量する(乾重とする)。
 2. もともと粘土層またはシルト層で未固結の場合は試料の粉砕は不要。固結層の場合,乾燥した試料を鉄乳鉢などで粉砕し,1〜2mmの篩に通す。粉砕前後に,鏡下で観察して根っこなどの有機物を取り除く。
なお,乳鉢は,
希塩酸で酸処理,水道水で洗浄,蒸留水で濯いで乾かしたものを使用する。
 以下はドラフトチャンバー内で実施する。

硝酸処理:

 1.希塩酸で酸処理した 2Lビーカーに試料40gを入れて,硝酸67.5%(硝酸の原液)1000cc加える。
 2.当方で使用している電気コンロ(SURE SK-1200)の場合,陶器板でビーカー上面に蓋をして(注ぎ口からガスは排出される),800Wで15分間加熱ののち,1200Wで5分間煮沸する(吹きこぼれないように)。濃い茶色のガスが吹き出し,溶液はフミン酸とフルボ酸のために濃い茶色になる。
 3.その後,自然冷却して, 6N硝酸を185cc追加して,蓋をして,一晩放置する。

 以下はドラフトチャンバー外。(回収時にはビーカーを軍手で運び,マスク)
 4. 上澄み液は,シンクで十分に水道水を出しながら,傾斜法で廃棄する。上澄みと沈殿物は完全分離している。
 5. 沈殿物が入ったビーカーに蒸留水を十分に入れて,超音波洗浄器でステンレス匙を使いつつ,拡散させる。静置して自然沈降させるにはあまりに多くの時間を要するので,Buchner容器を使って吸引濾過を繰り返す。
 濯ぎ後の試料は加熱分解をし,二酸化炭素をアンモニア水で吸収するので,酸は十分に洗浄しておいた方がいいだろう。

  1Lビーカー使用時 2Lビーカー使用時
試料重 20g 30g 40g 60g
67.5%硝酸 500cc 750cc 1000cc 1500cc
6N硝酸 93cc 139cc 185cc 278cc
         

 参考:67.5%硝酸原液から6N硝酸HNO3を作製する場合の考え方:
1. 原液 126ccの重量は175gだった。つまり,126cc中に175*0.675/63=1.875モルの硝酸が含まれている。
2. 1000cc中だと,1.875*1000/126=14.88モルの硝酸が入っている。それゆえこの原液は18.88Nである。
3. 6N硝酸を作るには,6*1000/14.88=403ccだから,原液403ccから1000ccの水溶液を作ればいい。

 作製法:まず1Lビーカーに蒸留水を500cc入れて,次に原液を403cc徐々に追加して,蒸留水をゆっくりと足して溶液を1000ccにすればよい。作成した6N硝酸は余った塩酸などの500ccあまりが入る茶ビンに保存する。

A.P.HAMMOND* K. M. GOH P. J. TONKIN and M. R. MANNING, 1991.
Chemical pretreatments for improving the radiocarbon dates of peats and organic silts in a gley podzol environment: Grahams Terrace, North Westland .
New Zealand Journal of Geology and Geophysics, 1991, Vol. 34:191-194.

Goh, K. M. 1991.
Carbon dating. In: Coleman, D. C; Fry, B. ed. Carbon isotope techniques. Florida, Academic Press.

 

 加速器での年代測定に必要な土壌試料重量を前もって知ることはできない。別途示す加熱分解過程で少なくとも,上記の熱強酸処理済土壌試料が40g以上は必要だろう。Goh and Molloy (1978)などによれば,この方法で処理すると火山灰の場合,完全に有機物が消失するらしい。粘土層の場合にこの手法が有効なのだろう。一体,残るであろうヒューミンhuminは何の年代なのか。考えられる最古年代であって,その堆積層の堆積時代を示すものでは必ずしもない。
 これについては別途,述べる。

以 上