シリーズVにあたる報告は,
木庭元晴・米田文孝・影山陽子・佐藤ふみ,2008(投稿中). 放射性炭素年代測定のための液体シンチレーション計測の改善II . なにわ・大阪文化遺産学叢書No. 10?, pp.??-??.
であるが,この報告は未完で,近々,これまでの成果も踏まえて海外の学術誌に投稿する予定である。ただ,Calib Ver.5を学生が利用するのに必要な部分(学会誌に投稿する内容ではなく実験室用マニュアル部分)をここに示す。
2008年現在,放射性炭素年代から較正年代を得るプログラムは,M.Stuiver, P.J. Reimer, and R. Reimer によって管理されているCalib Rev. 5.0である。プログラムファイルのダウンロードの方法から使用法までを次に示す。
3.1 Calib Rev.5.0関連ファイルのダウンロード
http://calib.qub.ac.uk/の2番目のCALIB Radiocarbon Calibrationからマニュアルやアプリケーション本体Calib501をダウンロードする。マニュアルからもダウンロードのリンクがあり,必要に応じて実施すればいい。
3.2 スプレッドシートに一括入力して較正年代値を得る手順
「関西大学年代測定室のベンゼンー液体シンチレーション法による 放射性炭素年代測定法IV: 放射性炭素年代の計算過程とその較正年代への変換(木庭元晴・網干善教・米田文孝)」の末尾にCalib Rev. 4.3の使い方を示しているが,これとはかなりの違いがある。ほぼ類推可能であるので,詳細は示さないが,「放射性炭素年代測定法IV」の「2.3 スプレッドシート(csv形式)から較正年代を求める ― 全過程」の部分に当たるところを主に書き換える。 スプレッドシート(csv形式)の例
上の画像のcsvファイルをダウンロード。
オリジナルcsvは
http://www.calib.qub.ac.uk/crev50/manual/d13ccorr.xls からダウンロード可能。
3.2.1 Calib Manual − Chapter 1抜粋
Calibは,試料の真の年代true ageの確率分布を計算して,放射性炭素年代yr BPから較正年代Cal yrを得るためのものである。較正に使ったCalibのデータセット名は明記する必要がある。 データセットには,IntCal04, Marine04, SHCal04(以上は2004年の国際学会), UWSY98(Stuiver et al., 1998のものは350 14C BPに限定して)がある。
A. データセットの選択
IntCal04: 北半球のnon-marine試料に適用。 SHCal04; 南半球のnon-marine試料に適用。11,000 yr BPまで。 Marine04: 海洋全体の軟体動物,サンゴ,魚などの海洋試料について適用可。リザーバー効果ΔRの適用は,この較正年代値を得てから(Dで議論)。 他: 陸源と海洋の混合起源のものについては,Eで示す。Post-AD1950の試料の較正年代については,http://www.calib.org で取得可能。
BとC. 系統的なズレの補正
理想的には較正年代を求める前に,測定機関の系統的なズレの補正を実施すべきである。当然ながら,このプログラムには,その補正分を入力することができる。補正が必要無い場合,わからない場合は,上に示した表の該当部分Lab Error or added varianceに1(既定値)を入力する。
D . 海洋試料に対するリザーバー効果の適用
海洋ではほぼ400年だが,海域による違いは,http://www.calib.qub.ac.uk/marine に掲載されている。このサイトで経緯度を入力すれば求まる。ユーザーは放射性炭素年代yr BPからこの値を単に引き算すればいい。しかし,一括処理の場合は上の表のDelta R years の列に入力すればいい。
E . 海洋性炭素含有比率
Marine Carbon percentage 例えば人間が海洋性のものと陸源性のものをどれぐらいの比率で食べているかによってきまる。同位体比によるものが最も適切か。例えば,Ambrose, S.H. and Norr, L.(1993)に示されている。
I . 試料カレンダー
較正年代が20〜30年以上にわたる試料(例えば木片試料で100年分の年輪に相当する試料)の場合,移動平均を採用した方がいい。上の表でAge Spanの列に入力する。
J . 同位体分別のδ13C補正
放射性炭素年代は-25‰ PDB or VPDBに標準化することで同位体補正される。CALIBはこの同位体補正をサポートしない。前もって補正しておく必要性がある。それゆえ,一括処理の場合も,上表の次の列はゼロにする。つまり,Uncorrected 14C date, Uncorrected 14C SD years, d13C per mil, d13C SD years,の列について。
較正年代Cal ageは,50年前より古い試料では,10年で丸める。たとえば5125 cal yearならば,5130 cal yearにする。
3.2.2 Calib Manual − Chapter 2 Chapter 3抜粋
アプリケーションCalib501を立ち上げて,メインメニューHelpにイントロダクションがあるがこの章の内容と類似する。一括処理に限定して述べる。Calib501を立ち上げると個別入力とソフトのバージョン表示の画面になる。個別入力ウィンドもソフトのバージョン表示の画面も開いたままにしておく。個別入力画面ではLabcode001,samplecode001のカードが表示されているがこれは削除できない。一括入力の場合でもこのカードは必ず表示される。たとえば9試料の場合,10カードで構成されることになる。 まずは,オプションを前もって設定する。 Options/Calibration Precision: 1 SD, 2SDの両方を選ぶことができるので,そのままにしておく。 Output: Cal BPの方を選ぶ。 Treatment of Lab Errors: as a multiflierを選ぶ。 Sample Identification: sample codeを選ぶ。 Options/Plot Type: Single Probability Normalized to Unit Heightを選ぶ。
3.2.3 ルーティン計算手順
1. さて,File/Openで適当なc14inp.csvを読み込む。カードにすべて読み込まれていることがわかる。
2. Calibrate/Goを実施。計算結果が一括してCalib Rev 5.0.1のウィンドウに表示される。ファイルとしては,calout.csvに記録されている。Precisionを1SDと2SD選んでおくと両方の計算結果が示される。つまり,各試料について2行を使用する。
3. View/Plotを実施。Calib Plotウィンドウに表示される。
このウインドウの左下のsample Numberを選ぶことができる。この選んだ試料について表示された確率分布がアプリケーションCalib501と一緒に入っているcalib.epsに保存される。このウィンドウで別のサンプルを選んで確率分布を表示するとこれがcalib.epsに保存される。それゆえ,一つを表示するたびに,File/Saveで個別のグラフを特定のフォルダに保存してゆく必要がある。
以 上